波の底にも都あり
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    文楽の『義経千本桜』で、安徳天皇が和歌を詠みますね。天皇が読む和歌を「御製〔ぎょせい〕」と言います。

    今ぞ知る 御裳濯川〔みもすそがわ〕の 流れには 波の底にも 都ありとは
    物語の中では、「安徳天皇が初めて詠んだ御製」ということになっていますが、実在した安徳天皇が壇ノ浦で入水したのは満6歳のことだったそうで、まだ、このような和歌が詠める年齢ではありません。
    『源平盛衰記』において、この和歌は二位殿〔にいどの〕が詠んだことになっています。それも本当の話かどうか分かりません。誰かが、二位殿になりかわって、二位殿の辞世を創作したのかもしれません。二位殿とは、二位尼〔にいのあま〕とも呼ばれますが、安徳天皇の母方の祖母であられる平時子〔たいらのときこ〕のことです。ちなみに『平家物語』の「先帝身投」には、この和歌は出てきません。これが、能の『大原御幸〔おはらごこう〕』では、「安徳天皇の最後の御製」ということにすり替わります。つまり『義経千本桜』は、能をパクっているわけです。
    ついでに申し上げますと、『義経千本桜』において平知盛は「六道〔ろくどう〕の苦しみ」ということを言います。これは、知盛が安徳天皇の身の上について語る述懐ですが、『平家物語』では建礼門院〔けんれいもんいん〕がご自身の身の上話として語っています。能の『大原御幸』にも出てきます。建礼門院とは、安徳天皇の御母、平徳子〔たいらのとくこ〕です。ここでも、人物がすり替わっているのです。
    人間は、何度も生まれ変わるあいだに、天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道の六道を巡ると言われますが、建礼門院は、わずか一生のあいだに6つを全て経験したと自ら語ります。ところで、6つのうち「畜生道」については、「それは自分で体験したうちに入らないのではないかな」と私はむかしから違和感を感じていました。6つ揃えるために無理やりこじつけているとでも言いましょうか。ところが!先ごろ、衝撃的な記述を発見したのです。ううう・・・。
    *畜生道
    『平家物語』の「読み本系」には、建礼門院が異母兄弟である宗盛や知盛と特別な関係にあるという噂が立ったことが書かれているものがあり、また、『源平盛衰記』には義経との間にも浮名を立てられたとする記述もある。建礼門院のそれらの体験が「畜生道」にあたるとされている。
    100分de名著『平家物語』安田登:著より(p114)
    とても衝撃的な記述でした。歌舞伎の『三人吉三廓初買』にも出てきますが、近親相姦は畜生道の苦しみなんですよね。世の中どうなっているのだろう。この世界では、あらゆることが起こり得る。
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    ところで、現在「大阪都構想」なるものが進行中で、もうすぐ住民投票が行われるそうですが、可決されても大阪は都にはならないですよね?他国では知りませんが、日本において「都」と言ったら、天皇陛下のおわします地のことであり、それ以外にはない。なぜ「都構想」などと僭称しているのでしょうか。馬鹿を騙くらかして自分たちの思うように操ろうという戦略の1つでしょうか?それとも、本当に「大阪都」になるのでしょうか。何でも起こり得るこの不思議な世界で。
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