私はいま大阪府枚方市に住んでいます。淀川の東岸で、京都中心部と大阪中心部の中間に位置し、江戸時代には宿場町として栄えたそうです。
江戸時代にできた船宿「鍵屋」が資料館となって公開されており、本日、2階の大広間で講談の催しがあるというので行ってきました。
読み物は『難波戦記』より「般若寺の焼き討ち」と「喰らわんか舟の由来」でした。出演は三十代前半の若手講談師、旭堂南歩〔なんぽ〕さんです。はっきりとは言っていませんでしたが「南歩ちゃん」って呼んでほしいらしい。
驚いたことに、南歩さんは、語り口や仕草が神田伯山さんに似ていました。意図的に似せているのではないかと思ったほどでした。違っている点は、
・伯山さんは関東弁、南歩さんは関西弁
・伯山さんのほうが声が太い
・南歩さんのほうが爽やか
・持ちネタが異なる
ということでしょうか。
伯山さんは鍵屋資料館で「喰らわんか舟の由来」を読んだりしない。絶対に。
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今日の講談会は、時と場所を得た、神がかり的な好企画でした。
まず冒頭に資料館の館長さんの話があって「春分の日は、龍が天に昇っていく日だそうで、今日の雨も水を司る龍神が降らせたものかもしれません」などと挨拶。
龍が天に昇っていく日だなんて、52年間生きてきて初めて聞きましたが、あとで調べたら季語にもなっているそうな。
そして、ご当地ネタ「喰らわんか舟の由来」は、「龍が天に昇って運が開ける」という話だったのです。
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ネタの中で和歌が出てきて、覚えようと思ったのですが、覚えられませんでした。話の中で2回くらい言っていたのに・・・。自分にガッカリしました。でも頭の中で復唱していたら話が先に進んでいってしまうではありませんか。講談の続きを聞きつつ、頭の中で和歌を復唱する、という作業ができなかったのです。そして和歌が消えていった。
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話は逸れますが、これまで「私は落語とか講談とか駄目なんです」という人に何人か会ったことがあります。「は?駄目ってどういうことですか?」と不思議に思うのですが、話が頭に入ってこないのだそうです。「私は視覚的な人間なので、聴覚的な芸能は苦手なんです」と言っている人もいました。
でも日本の伝統芸能って、言葉の分からない人には全く通じないものが多いですよね。インバウンド向きじゃないのよね。
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関西の人が「東京の落語は聞き取れない」と言っているのも聞いたことがあります。
英語のヒアリングでも、聞き取れない箇所があると、そのあとに続く「簡単なはずのフレーズ」までも、まとめて聞き取れなくなってしまう、ということがございます。
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関西で講談の会に行きますと、客層が驚くほど高齢で、七〜八十代が中心ではないかと思います。伯山さんの会は、もっと若い人がたくさんいるのにね。
今日の会は、講談を初めて聞く人も多く、男女半々くらいでしたが、定例の講談会に行くと男性の比率が極めて高いですね。「講釈場 いらぬ親父の 捨てどころ」という川柳があるそうですが・・・。
軍談には、女性の登場人物があまり出てきません。今日の2席の講談では女性が1人も出てこなかった。
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落語、講談、浪曲、私はほとんど聞き取れます。聞き取れない箇所はほとんどありません。講談で修羅場になると分からないところもかなり出てきますけれど。
しかし、なぜか大河ドラマを見ていると、けっこう聞き取れない箇所があるのです。字幕を表示させたりしてしまう。そして、演技より先に字幕を読んでしまって興醒めして、字幕を付けたり消したりするのでありました。
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今日の講談「喰らわんか舟の由来」は、ちょっとネタバレになりますが、敵から逃げる時、兜の鍬形を紛失してしまった徳川秀忠が、それがために切腹しようとすると、見ていた船頭さんが和歌を詠んで思いとどまらせる、という内容でした。「鍬形がなくなったので、上にあった邪魔な物がなくなり、兜の龍頭が天に昇っていけるようになって、あなたの運も開けるでしょう」という和歌だったと思います。
「たつがしら」と音で聞いて、脳内で「龍頭」と漢字変換できないと、意味が分からない。それほど難しくないと思うけれど。
若い人には難しいのかもしれません。私は若い時から若くなかった。
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そもそも「くらわんか舟」を知らない人には、由来も興味がないのかもしれない。私は知っていたのでした。枚方市民ですし。
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終演時に、本日の講談と関連の深い浮世絵(月岡芳年「徳川治蹟年間紀事」二代台徳院殿秀忠公)が、出口に展示されていました。本当に素晴らしい会でした。
私にとってグッドタイミングな会でした。
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南歩ちゃんはオススメです。